カラダのことに関わっていると必ず出会うのが、ヒトの生き死にです。例えば重病で余命幾許もないという話を聴くと、「長生きさせてあげたい」「少しでも長生きを」と願うことも少なくありません。果たして長生きを目標に調整することができるのでしょうか。母が亡くなってから十年の間、同じことを考えながら此処までやって来たような気がします。その結果、「長生き」は、ヒトの仕事の範疇にはないというのが一つの結論です。私たちにできることは「生を全う」する「お手伝い」を越えることはありません。「生」の持つ可能性を、十全に発揮できないことがあるとしたら、それは不幸以外の何者でもありません。その不幸を排除することを目的にすることが自然です。調整や治療に関わるものは、つい驕ってしまって、カラダの痛みやちょっとした不調を解消したぐらいで、生死をも変化させられると思いがちです。痛みを解くことすら、本来カラダがもっている力を発揮させるだけです。ヒトはヒトです。神様ではないのですから、何もない処から生物を生み出すことはできませんし、死んだものを変化させることはできません。もし生死＝寿命に対して何かができるとしたら、それは神様と同じということになります。「そろそろ危ない」ことぐらいはわかるように成れるでしょうが、誰も寿命を変えることはできません。寿命はまさに寿命なのです。自分に出来ることをわきまえることで、可能性は広がっていきます。寿命までの間、ヒトの「生」を生かすこと、それが私たち身体調整に関わるものの仕事なのです。
